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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2888号 判決 2000年6月13日

控訴人

佐藤順子

ほか二名

被控訴人

富士火災海上保険株式会社

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人佐藤順子に対し金三四一一万一三〇九円、控訴人佐藤絵里加、控訴人佐藤裕二に対し各金一七〇五万五六五五円及びこれらに対する平成七年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

主文一項と同旨

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるので、これを引用する。

1  原判決三頁一一行目に「保険会社に対し、」とある次に「相手方の自動車の運転者に代位して」を加え、四頁一行目に「損害賠償額」とあるのを「保険金」と改める。

2  原判決五頁二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「2 荒田優美夫に対する損害賠償債権

(一)  控訴人らは、本訴と併合して、荒田優美夫に対し、民法七〇九条に基づき本件事故の損害賠償(ただし、自賠責保険による損害のてん補後のもの)として、控訴人左藤順子に対し金三四一一万一三〇九円、控訴人佐藤絵里加、控訴人佐藤裕二に対し各金一七〇五万五六五五円及びこれらに対する平成七年五月二三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。

(二)  荒田優美夫は、平成八年六月三日、原審における第一回口頭弁論期日において、控訴人らの右訴えにかかる請求を認諾した。」

3  原判決五頁三行目冒頭に「2」とあるのを「3」と改める

4  原判決五頁一一行目冒頭に「3」とあるのを「4」と改め、同行目に「一〇」とある次に「、一七」を加え、六頁一行目から一一行目までを次のとおり改める。

「(一) 第一章 賠償責任条項

第一条(被控訴人のてん補責任―対人賠償)

(1)  被控訴人は、保険証券記載の自動車(以下「被保険自動車」という。)の所有、使用又は管理に起因して他人の生命又は身体を害すること(以下「対人事故」という。)により、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を、この賠償責任条項及び一般条項に従い、てん補する。

(二) 第六章 一般条項

第一四条(事故発生時の義務)

保険契約者または被保険者は、事故が発生したことを知ったときは、次のことを履行しなければならない。

<7> 損害賠償の請求を受けた場合には、あらかじめ被控訴人の承認を得ないで、その全部又は一部を承認しないこと。

第一五条(事故発生時の義務違反)

(3)  保険契約者または被保険者が、正当な理由がなくて前条<7>(責任の無断承認の禁止)の規定に違反した場合は、被控訴人は、次の金額を差引いて保険金を支払う。

<3> 前条<7>に違反した場合は、損害賠償責任がないと認められる額」

5  原判決七頁一行目冒頭に「(二)」とあるのを「(三)」と改める。

6  原判決一〇頁四行目冒頭に「4」とあるのを「5」と改める。

7  原判決一〇頁六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「6 荒田優美夫は、前記2記載の損害賠償債務を弁済する資力を有しない(乙四、弁論の全趣旨)」

8  原判決一〇頁八行目から一一頁八行目までを削り、同九行目冒頭に「2」とあるのを「1」と改める。

9  原判決一一頁一一行目から一四頁四行目までを次のとおり改める。

「(一) 控訴人らの主張

(1)  本件車両の「自動車検査証」(甲二)によれば、「自動車の種別」は「小型」、「用途」は「貨物」と記載されているから、本件車両は、他車運転危険担保特約二条本文にいう「用途及び車種」が「自家用小型貨物車」に該当する。

(2)  保険約款上、「自家用小型貨物車」及び「小型ダンプカー」の概念は、次に述べるとおり必ずしも明確ではない。このような場合には、保険約款の解釈は、「疑わしきは被保険者の利益に」という大原則に従うべきである。

(3)  保険約款上、「自家用小型貨物車」と「小型ダンプカー」とが別に区分されていることは契約者に明らかにされているが、「ダンプ装置のある小型貨物車」がそのいずれに該当するのかについては、明らかにされていない。

確かに、「自動車保険取扱規定集(以下「取扱規定」という。)」(甲一四)の区分表は、「用途・車種」において「自家用小型貨物車」と「自家用小型ダンプカー」とを区分しているが、右「自家用小型貨物車」の中から「ダンプ装置のある小型貨物車」を除き、「自家用小型貨物車」の中に「ダンプ装置のあるもの」と「ダンプ装置のないもの」とがあることを明らかにしている。また、取扱規定には、「(自家用・営業用)三輪自動車」、「(自家用・営業用)軽四輪貨物車」、「(自家用・営業用)軽三輪自動車」については、「ダンプ装置のあるものを含む。」ことが明記されている。特に、普通・小型三輪自動車については、「(自家用・営業用)三輪自動車」とは別に「(自家用・営業用)三輪ダンプカー」があることを明らかにしている。

しかし、ダンプ装置の有無によって車両が区分されることは、取扱規定によらなければ知ることができないが、取扱規定は被控訴人の内部規定にすぎず、契約の内容となって拘束力を有するものではない。

(二) 被控訴人の主張

(1)  保険約款上の「用途及び車種」は、自動車検査証の「用途」及び「自動車の種別」と同義ではない。

(2)  被控訴人は、本件保険契約を締結した際に、保険契約者荒田優美夫に対し「ご契約のしおり」(以下「本件しおり」という。)及び保険約款を交付ないし送付している。

そして、本件しおりは、保険約款の重要事項を抜粋し、その内容を補足説明したものであって、保険約款と一体をなすから、保険契約者に交付ないし送付された時点で、保険約款の内容及び本件しおりの合理性が肯定されることを条件として、その拘束力を生ずる。

(3)  保険約款及び本件しおりは、次のとおりダンプ装置の有無によって、小型貨物車と小型ダンプカーとを区別しており、本件車両は、ダンプ装置を有するから、保険約款上の「(自家用)小型ダンプカー」に該当し、「自家用小型貨物車」に該当しない。

すなわち、本件しおりの「約款用語のご説明」には、「用途とは、自家用、営業用(事業用)の自動車の使用形態の区別を意味し、車種とは、普通乗用車、小型乗用車、小型貨物車、小型ダンプカー、バスなどの自動車の種類の区別を意味します。」と記載され、車種の例示の中に、「小型貨物車」と「小型ダンプカー」とが別の車種として明示されている。

また、同一約款においては、同一の用語は、特に反対に解する理由がない限り、同一の意義を有するものと考えるのが合理的であるところ、保険約款第六章(一般条項)第六条(被保険自動車の入替)第一項は、一定の場合に被保険自動車の入替をできることとしているところ、その「別表Ⅱ 同一の用途・車種とみなして被保険自動車の入替ができる用途・車種区分表」には、「自家用小型貨物車」と「小型ダンプカー」とは、相互に入替ができない異なる車種であることが明示されている。」

10  原判決一四頁五行目冒頭に「3」とあるのを「2」と改める。

11  原判決一五頁一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「3 被控訴人の保険責任

(一)  被控訴人の主張

本件事故は佐藤孝志に過失があるため、荒田優美夫の損害賠償の額を定めるについては過失相殺がされるべきであるところ、荒田優美夫は、右過失相殺の主張をすることなく控訴人らの請求を認諾したから、本件約款第六章第一四条<7>の無断承認に該当する。したがって、荒田優美夫に損害賠償責任がないと認められる額については、被控訴人は、保険責任を負わない。

(二)  控訴人らの主張

本訴は、原告を控訴人ら、被告を荒田優美夫、荒田正美及び被控訴人として提起されたから、被控訴人は、荒田優美夫が原審において請求の認諾をするまでに、荒田優美夫の補助参加人となり、過失相殺の主張をすることができたのに、荒田優美夫の認諾行為を実際に見分しながら、被控訴人は、何ら申立てないし主張をしなかった。したがって、荒田優美夫の請求の認諾は、無断承認に該当しない。」

12  原判決一八頁五行目から一九頁七行目までを削る。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの請求は理由がないものと判断する。

その理由は、次のとおり訂正、削除、付加するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一九頁一〇行目に「争点2」とあるのを「争点1」と改め、同一一行目を削り、二〇頁一行目冒頭に「1」を、同行目に「甲二」とある次に「、一四、一七の1、2」を、同行目に「一〇」とある次に「、一六、一七」をそれぞれ加える。

2  原判訣二〇頁六行目の「被告は、」から同七行目の「これには、」までを次のとおり改める。

「荒田優美夫は、平成元年頃、被控訴人の取扱代理店ライオン商事株式会社を介して被控訴人との間で、本件保険契約と同様の保険契約を締結し、その後、保険契約を更新してきたが、その際、対人及び対物賠償の保険金額等についての説明は受けたが、他車運転危険担保特約についての具体的な説明は受けなかった。また、当初の契約の際には本件しおりの交付を受け、その後の更新の際にも保険約款の送付を受けている。そして、右本件しおりには、」

3  原判決二一頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 なお、小型貨物車及び小型ダンプカーのいずれについても、登録番号標の分類番号は、「4・40~49」であり、塗色は、自家用の場合には「白地に緑文字」、営業用の場合には「緑地に白文字」である。」

4  原判決二二頁五行目の「なっている。」の次に、次のとおり加える。

「なお、三輪自動車(分類番号 6・60~69)についても、同様に自家用三輪ダンプカー、営業用三輪ダンプカーの区分が設けられ、自家用三輪自動車及び営業用三輪自動車からは、ダンプ装置のある三輪自動車を除く扱いになっている。ただし、特殊用途自動車(分類番号 8・80~89)に分類される自家用三輪自動車及び営業用三輪自動車にはダンプ装置のあるものを含む扱いになっている。また、自家用軽四輪貨物車、営業用軽四輪貨物車、自家用軽三輪自動車、営業用軽三輪自動車には、ダンプ装置のあるものを含む扱いになっている。」

5  原判決二二頁九行目に「限定されている。」とあるのを「限定されており、本件保険契約の保険契約者荒田優美夫にも交付されていない。」と改める。

6  原判決二三頁二行目に「一般条項」とあるのを「第六章第六条」と改め、同三行目に「区分表」とある次に「(別表Ⅱ)」を加える。

7  原判決二三頁六行目から二五頁二行目までを次のとおり改める。

「2 そこで、前記「前提となる事実」及び右の認定事実によって検討する。

そもそも本件しおりは、保険約款の重要事項を抜粋し、その内容を補足説明したものであるが、これが当初保険契約の締結された時に荒田優美夫に交付されていることを考慮しても、その故をもって直ちに本件保険契約の内容をなすものということはできない。また、取扱規定は、被控訴人の内部規定であって、保険契約者(荒田優美夫)に交付されていないから、本件保険契約の内容となるものではない。

しかし、保険約款第六章第六条第一項及び別表Ⅱは、被保険自動車の入替ができる用途・車種として、「自家用小型貨物車」と「小型ダンプカー」とを区分した上、相互に入替ができないと明記している(ちなみに、本件しおりも、その「約款用語のご説明」の「用途・車種」欄において、同じ登録番号標の分類番号(4・40~49)に属する「小型貨物車」と「小型ダンプカー」とは別の車種として区分されている。)ことが明らかである。してみると、本件車両(ダンプ装置のある四輪の小型車)は、「小型ダンプカー」として、「小型貨物車」とは別に区分されていると解するのが相当である。」

8  原判決二五頁一〇行目の「そして、」から二六頁三行目の「保険約款上の」までを「むしろ、他車運転危険担保特約二条に掲げられた各自動車にかんがみると、同条の」と改める。

9  原判決二八頁六行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「 さらに、控訴人らは、取扱規定では、「(自家用・営業用)三輪自動車」、「(自家用・営業用)軽四輪貨物車」、「(自家用・営業用)軽三輪自動車」については、「ダンプ装置のあるものを含む。」ことが明記されており、特に普通・小型三輪自動車については、「(自家用・営業用)三輪自動車」とは別に「(自家用・営業用)三輪ダンプカー」。があることを明らかにしているから、ダンプ装置のある車両が「貨物車」とは別の「ダンプカー」として区分されることは、右取扱規定によらなければ知ることができないと主張する。確かに、取扱規定(甲一四)によれば、控訴人らの主張する右事実が認められるほか、「普通・小型三輪自動車」のうち特殊用途自動車(分類番号 8・80~89)に属する「(自家用・営業用)三輪自動車」については、「ダンプ装置のあるものを含む。」としているが、「三輪自動車」(分類番号 6・60~69)については、ダンプ装置のある三輪の小型自動車のみを「(自家用・営業用)三輪ダンプカー」とし、それ以外の三輪自動車を「(自家用・営業用)三輪自動車」としている。これらによれば、取扱規定上、「貨物車」の中に「ダンプ装置のあるもの」が含まれるのか否かは、一義的に定まっているわけではないことが明らかである。

しかしながら、取扱規定は、「(自家用・営業用)軽四輪貨物車」及び「(自家用・営業用)軽三輪自動車」については、これとは別に「用途・車種」の異なる「(自家用・営業用)軽四輪ダンプカー」ないし「(自家用・営業用)軽三輪ダンプカー」を設けているわけではないし、「(自家用・営業用)三輪自動車」と「(自家用・営業用)三輪ダンプカー」との分類は、種別・分類番号の異なる自動車についてされているにすぎない。そして、本件の場合には、同じ分類番号(4・40~49・)の小型貨物車について、「(自家用・営業用)小型貨物車」と「(自家用・営業用)小型ダンプカー」とを区分しているのであるから、控訴人らの指摘する右の点が前記解釈を左右するものではない。」

二  結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 増井和男 揖斐潔 髙野輝久)

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